奈良女子養生舎にお越しになる方は50代を中心に、40代から60代の方がとても多いので、閉経前後5年と定義される更年期にちょうど当たります。
私自身が52歳、48歳で「女性臨床鍼灸ならまち月燈」を開院して、4年間、ちょうど50歳に閉経を迎えての前後2年ですから、ど真ん中世代です。
私自身は今のところ自分史上では30代が一番からだの調子が悪く、40代、50代と比較的体調全般としての調子はよいときが多いですが、それでもやはりこの時期ならではの不調はあり、大人女性の不調にはとても強く共感します。
今日のカルテ001番さんは、56歳の介護福祉士の方です。息子2人はそれぞれ結婚して、遠方に住んでいらっしゃり、ご夫婦2人の生活です。
とても、陽気で快活な方で、お仕事先でも率先してみんなの苦手とされる方を引き受け、入浴介助や車いすの移乗など、力のいる仕事も一手に引き受けていらっしゃるようでした。細やかなお心遣いと、小さいことは気にせず上手に流すおおらかな気質が共存する、稀有な美質の持ち主です。
ストレス発散は美味しいものを食べること…と仰って、美味しいものをとてもよくご存知だし、食後の甘いものが欠かせないご様子です。体つきは中肉中背ですが、やや下半身にぜい肉が多く、ご本人も気にして、○○ダイエットと言われるものは、一通り試したと笑われます。
肌は黄みの強い白さ。肌理は細かく整っています。
お身体の力はあり、東洋医学的にみると脾虚血熱証かな…と思いながらお身体を触ります。
うつ伏せになって頂くと、右足が短く、右かかとが大きく右に倒れています。
左腰が膨隆して、右肩が前に巻き込むのをせき止めるようになっていて、左腰にも力が入っています。
足を触ると、右足の小指が一番冷たく、その次が左足の小指、親指側と随分と温度差があることが自覚としてもわかると仰います。
脊柱を掌圧していくと、とても硬く、全くしないません。
脊柱という骨は椎骨がS字のカーブを描いていて、柔軟に動くし、しなうものなのですが、カチンと固まってしまっている方が多いし、それ自体に気づいていない方がまた多いです。
でも、脊柱がしなわないと、肋骨も広がらないし、横隔膜も下がらない、呼吸が浅いままになる・・という悪循環が繰り返されます。
呼吸を導きながら、ゆっくりと徐々に深い呼吸に誘導し、からだの力を脱いていくよう丁寧に掌圧を繰り返します。
少しづつ、ほぐれてきたので、右横向きになって頂き、手の指先から肘、肩まで指圧と把握圧で緩めていきます。
「肩ひじ張る」という言葉通り、現代の女性は有能なあまりぐっと肩や肘に力が入っている方が多いです。
「痛い、痛い…ああでも気持ちいい…痛気持ちいい…」を繰り返されるようになります。
小指薬指の間の中渚をグッと拇指圧すると響くとのことで、持続圧で反応がなくなるまで待ちます。
だいぶ、肩、肘の力が抜けてきたところで、左膏肓に一点圧。「あ~、そこそこ・・・」と001番さんも叫ぶように仰いますが、左膏肓は「あ~そこそこ」率の高いツボです。
上半身の力がだいぶ抜けてきたところで、首と頭を触りながら圧します。
首と頭に時間がかかる方が多いのですが、この方は三焦経の押圧でだいぶ力が抜けたので、首肩はサラッと流します。
下肢にまわりますが、仙腸関節から大腿外側にかけてとても力が入っているので、ゆっくりと掌圧をかけて力が脱けるように誘導します。経絡でいえば、胆経を辿って、陽陵泉、足臨泣にとても反応があるので拇指圧で響かせます。
反対側を向いていただいて、左上の施術もすすめますが、ほとんど右の時に緩んでいるのであとは確認する程度の掌圧です。
頭のてっぺんから、足先まで、触るのは全身を触ります。
右上の時は、「痛い、痛い!」と叫びながら、夫とのリズムやペースの合わなさ、実母の介護の思うに任せなさを訴え、にぎやかに表情豊かにお話されていましたが、反対側を向くころには、ゆるんだ体でゆっくりと呼吸を深く繰り返し、こちらに身を委ねてくださいます。
最後に掌圧をするころには、からだから力みが消え、穏やかな柔らかい線を肉体が描いています。
冷たかった小指側も、親指側と温度差がないぐらいに温まりました。
「はぁ~、楽になった~!!今日はよく眠れそうだ~!!!」
と、氣血の巡った表情で帰って行かれました。
「有難うございます。お大事になさってくださいね~」と
送り出しながら、氣を人に遣ってしまわないで、ご自身のために使って欲しいなぁ…と
いつも思うことを、この日も思いました。
001番の経絡
三焦経、胆経
001番の経絡
中渚、膏肓、陽陵泉、足臨泣